世界人口の増加に伴って、エコなタンパク質源として知られる、魚の需要は増加傾向にあります。また昨今のヘルシー志向もその需要に拍車を掛けていると言えるでしょう。
寿司ネタなどで人気の高いサーモン。日本国内での消費量は約30万トンと言われており、その約8割はノルウェーやチリをメインとする外国産の養殖サーモン、すなわち輸入サーモンです。しかし世界需要の増加に伴って各国でサーモンの争奪戦となっており、おのずとその価格は上昇。今後、国内の需要を満たすサーモンの量を確保するのが、今後困難になることが見込まれています。
そこで注目されているのが、国産で生産される養殖サーモンです。安定的に生産量を確保できる養殖サーモンに注目が集まるのは言うまでもないことですが、実際にその取り組みは日本の各地でなされており、従来法である海面養殖のみならず陸上養殖の取り組みも規模が拡大されています。
陸上養殖の中でも、とてもユニークな取り組みが閉鎖式陸上養殖システム(RAS方式)です。いちど水槽に張った水を、浄化しながら循環し、再利用する仕組み。つまり海で養殖する必要が無いのですね。この方式により、補給する水は数パーセント未満と最小限に抑えられます。土地と水道と電気があれば、どこでも魚の養殖が出来てしまうという、革新的な技術と言えるでしょう。
そこで今回は、閉鎖式陸上養殖システム(RAS方式)を採用したサーモン養殖に、国内でどの様な企業の取り組みがあるかをご紹介します。それではスタート!
サーモン陸上養殖のメリットとデメリット
メリット
- 日本の食品自給率を底上げする(GDPも改善)
- 安定したサーモンの生産と市場供給が可能
- 地域に雇用を創出し経済の活性化に貢献
- 様々な魚種に対応できる
- トレサビリティ―対応が容易
- 漁業権の制約を受けない
- 陸上だから作業場所へのアクセスが容易
デメリット
- 設備コストが高い
- 電気等のランニングコストが高い
- 機器が多いと故障リスクも高まる
- 停電に注意が必要
- 魚が病気なると被害が大きくなる
閉鎖循環式陸上養殖(RAS)のメリット
外部からの水の取り込みを最低限の抑えて水を循環再利用する「閉鎖循環式陸上養殖RAS」にはどの様なメリットがあるのでしょうか?ちなみにRASとは、Recirculating Aquaculture System(閉鎖循環式陸上養殖)です。
- 赤潮の影響や病原菌の侵入を防げる
- 抗生物質やワクチンの必要なし
- 成長を促進させるホルモン剤も必要なし
- マイクロプラスチックの影響を受けない
- 環境負荷改善(水質の汚染リスクなし)
閉鎖循環式陸上養殖(RAS)に取り組む会社
それではサーモンの陸上養殖でも閉鎖循環式(RAS)を日本の中で取り組んでいる会社にはどの様なものがあるか見ていきましょう。
ソウルオブジャパン
- 会社名:ソウルオブジャパン株式会社
(Pure Salmon(ピュアサーモン)グループの日本法人) - 設立:2018年10月
- 資本金:3億2640万円
- 事業内容:アトランティックサーモンの陸上養殖・加工事業
- 閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)
- 工場所在地:三重県津市
- 伊藤忠商事㈱及び㈱極洋が協業で2025年より販売
- URL:ソウルオブジャパン株式会社 (soulofjapan.co.jp)
- 魚種:アトランティックサーモン
- 三重県津市に工場建設中(2023年着工)
- 敷地面積136,979m2
- 生産能力 10,000トン/年
- 孵化、稚魚保育、スモルト化、保育、パージ、加工の工程
- 2018年にポーランドで商品用アトランティックサーモンの養殖に成功
- Pure Salmon社は日本以外でもアメリカ・フランスでそれぞれ1万トン、ブルネイで5千トンの陸上養殖場を建設中。世界全体で260,000tを目指している。
- 水処理(再利用)は、機械式のろ過の後、生物化学的な処理でアンモニアや亜硝酸などを取り除いているものと考えられる。
プロキシマーシーフード
- 会社名:Proximar(プロキシマー)株式会社
- 設立:2017年5月
- 事業内容:アトランティックサーモンの陸上養殖
- 閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)
- 従業員:25名
- 工場所在地:静岡県小山町(富士小山養殖場)
- 総合商社 丸紅と販売提携
- URL:プロキシマーシーフード (proximarseafood.com)
- 魚種:アトランティックサーモン
- プロキシマーシーフードはノルウェーの陸上サーモン会社
- 富士小山養殖場
- 2021年4月着工 敷地面積28,000m2
- 2024年販売開始予定(2027年フル稼働)
- アトランティックサーモン 生産能力 5,300トン/年
- イスラエル企業のAquaMaof社の技術を採用
- 地下水などをろ過(生物ろ過含む)しながら循環させる
- 重力を利用し従来法より電力消費量の削減に成功
- ある報道ではサーモン1キロあたり3ドルで生産とされている
FRDジャパン
- 会社名:FRDジャパン株式会社
- 設立:2013年12月
- 事業内容:サーモントラウト養殖・販売
- 社員数14名(2021年時点)
- 独自の閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)
- 実証実験プラント:埼玉県さいたま市、千葉県木更津市
- 建設中プラント:千葉県富津市
- 三井物産が大株主
- URL: FRDジャパン – 陸上養殖生サーモン『おかそだち』の生産企業 (frd-j.com)
- 魚種:サーモントラウト
- 「おかそだち」ブランドでサーモントラウト販売中
- 自社開発の閉鎖循環式(人工海水をほぼ100%循環)
- 約5年間の実証実験から商業プラントへ展開
- 千葉県富津市に商業プラント建設中(2023年7月着工)
- 操業開始2026年予定 出荷開始2027年予定
- サーモントラウト 生産能力3,500トン/年
- 硝酸をバクテリアで除去する脱窒装置を開発
アトランド
- 会社名:アトランド株式会社
- 設立:2022年10月
- 事業内容:循環型養殖システムを活用したサーモンの陸上養殖生産事業および販売事業
- 閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)
- 工場所在地:富山県入善町(入善町)
- 三菱商事㈱とマルハニチロ㈱の合弁会社(出資比率それぞれ51%, 49%)
- 総事業費 約110億円
- 魚種:アトランティックサーモン
- 富山県入善町(にゅうぜんまち)に工場建設中
- アトランティックサーモン 生産能力 2,500トン/年
- 2025年度 稼働開始、2027年度 初出荷を計画
- 使用する水には、黒部川の伏流水と富山湾の海洋深層水を活用
- 海洋深層水は綺麗で温度が安定してるため省エネに寄与
フィッシュファームみらい合同会社
- 会社名:フィッシュファームみらい合同会社
- 設立:2021年10月
- 資本金:1000万円
- 事業内容:魚介類の養殖、加工及び販売並びにそのコンサルタント業ほか
- 閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)
- 工場所在地:福岡県豊前市(九州電力 豊前発電所構内)
- 関連会社:九州電力株式会社、ニチモウ株式会社、西日本プラント工業株式会社、株式会社井戸内サーモンファーム
- URL:フィッシュファームみらい (ffmirai.com)
- 福岡県産の養殖ブランドサーモンとして「みらいサーモン」をプロデュース。
- 魚種:サーモントラウト
- 生産能力 300トン/年(Phase1)。2023年10月出荷開始。
- 将来は3000トン/年(Phase2)を計画し、2024年度内の着工を目指す
- 大分県日田市天瀬町の清らかな水で育まれた稚魚
- 福岡県豊前市の地下水、豊富な栄養を含む豊前海の海水、独自に配合したこだわりの餌で成魚へと育つ
- 最先端のICT技術を活用し、酸素量、水温、水流、餌などを最適な環境に保つ
林養魚場
- 会社名:株式会社林養魚場
- 会社設立:昭和43年
- 資本金:1000万円
- 事業内容:淡水魚養殖並びに加工販売/魚類養殖に関する機械器具の製造、家屋及び販売/養魚飼料の加工および販売/前各号に関連する輸入業務/釣り施設、その他レジャー施設の経営、開発、コンサルティング/飲食店の経営
- 閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)
- 関連会社:鳥取林養魚場/日本養魚技術
- URL:株式会社林養魚場 (hayashitrout.com)
サケマス陸上循環濾過養殖プラント HTF-RAS
- 内水面サケマス養魚場では、約10種類の魚を養殖しており、年間生産量は約400トンに達する。
- 水の使用量が少ない: 従来型の養殖方法に比べて、使用する水量が1/100程度で済む。
- 高密度飼育が可能: 省スペースで飼育密度100kg/㎥を実現し、効率的な生産が可能。
- 環境に優しい: 排泄物や二酸化炭素をほぼ100%回収でき、環境負荷が少ないシステム。
- 健康的な魚の生育: 水質を常に最適に保つことで、魚が健康的に育ち、美味しい魚を生産。
- リスクの低減: 自然災害や汚染水、疾病のリスクが少なく、完全無投薬での養殖が可能。
- NECネッツエスアイとの提携し、ネッツフォレスト陸上養殖㈱設立(2019年8月)。陸上養殖事業のフランチャイズモデルを提供。
鳥取林養魚場が生産する「とっとり琴浦グランサーモン」が先日「かっぱ寿司」とコラボしていましたので、サーモンのお鮨を食べてみました。スッキリとした脂で食べやすく、とても美味しかったですよ。
=スポンサーリンク=
まとめ
今回は、国内に工場を構えるサーモンの閉鎖式陸上養殖(RAS)にどの様な企業が取り組んでいるかにスポットを当てました。日本企業だけに留まらず、外資と日本の商社が提携したケースも多くみられることが分かりました。また、現在建設中の工場も多く、この日本でのパイオニアが大きな成果を残した場合は、さらに広がりを見せるビジネスであることが伺えました。
コメントお願いします(※は必須項目)